N・ルーマンによる〈近代化と宗教〉をめぐる論究の社会学説史的意義の解明
畠中 茉莉子
日本学術振興会, 科学研究費助成事業, 若手研究, 三重大学, 01 Apr. 2022 - 31 Mar. 2026
研究代表者は今年度、ニクラス・ルーマンの晩年の著作を中心として、彼が社会の近代化の過程において重視する宗教運動はいかなるものであったかを確認すると同時に、ドイツ社会学において長らく定説となってきた学説との比較を試みた。
ルーマンは1980年代後半から、宗教的な現象を捉える際に「コミュニケーション」の概念を用いるようになる。この概念を使用する際に彼が強調したことは、一連のコミュニケーションは「参加者がどのような意識の状態でそのつど協力しているのかを度外視する作動」であるということである。すなわち、彼はコミュニケーションの過程そのものと、そこにおける参加者の記憶ないし思考の過程の間に、一致と不一致、双方の可能性を見ているのである。この見解はかねてより彼が重視していた、ヨーロッパの宗教における多数の宗派の分立という事態をもとにした発想であると考えられる。というのも彼は、18世紀のヨーロッパにおける概念史の展開をふまえたうえで、各信仰が「諸宗教(Religionen)」という複数形において名指されるようになったことを重く捉え、それがこの地域における宗教的コミュニケーションに「他性」という契機を持ち込むことになったと考えるからである。ルーマンはその帰結として、一方ではある程度まで一般化された理解を前提とする「公的な」教会組織を中心とする宗教的コミュニケーションが生起し、他方にはそれを前提とせず、個別に展開される「セクト」が発生すると考えた。もっとも、この二つの軸の区別は彼の場合、常に社会の機能分化との関係において捉えられるものである。この点において、M・ヴェーバー、そしてE・トレルチによって展開された、組織とセクトの対比の構図は微妙にその布置をずらされることになることが明らかとなった。