大西 裕 | ![]() |
オオニシ ユタカ | |
大学院法学研究科 法学政治学専攻 | |
教授 | |
法学・政治学関係 |
2014年12月 サントリー文化財団, サントリー学芸賞, 『先進国・韓国の憂鬱』
2014年11月 樫山奨学財団, 樫山純三賞, 『先進国・韓国の憂鬱』
2014年06月 公共政策学会, 公共政策学会賞, 「韓国における市場志向的政党組織改革のゆくえ」(建林正彦編『政党組織の政治学』東洋経済新報社)
2006年06月 大平正芳記念財団, 第22回大平正芳記念賞, 著書『韓国経済の政治分析-大統領の政策選択-』(有斐閣、2005年)
[招待有り]
研究論文(学術雑誌)
[招待有り]
研究論文(学術雑誌)
[招待有り]
研究論文(大学,研究機関等紀要)
[招待有り]
研究論文(学術雑誌)
研究論文(学術雑誌)
本稿は,韓国の福祉政治,とりわけ高齢者福祉をめぐる政治に関する近年の研究を分析することで,韓国で福祉政治をめぐる研究が,理論レベルでも方法論レベルでも劇的に変化していることを示す。福祉政治の研究は,かつては事例研究が中心であり,理論的にも階級の存在を重視していたが,近年,方法論的には計量分析に比重を移しており,理論的には一般的な政治過程論同様,有権者や政党に焦点が当たるようになってきている。有権者レベルでは福祉態度が,政党レベルでは地方自治体の福祉政策が分析の焦点となり,従来見られなかった豊かな成果を生み出すようになってきた。ただし,福祉政治の新たな研究動向は,重要な問題を含んでいる。韓国の福祉政治研究は方法論的に洗練されてきているが,科学的に妥当性の高い方法が検証すべき理論を限定するという転倒が生じてしまい,本来広大であるべき研究視野を狭め,研究対象を限定する傾向を示しているのである。
日本貿易振興機構アジア経済研究所, 2017年, アジア経済, 58 (4), 55 - 75, 日本語[査読有り][招待有り]
研究論文(学術雑誌)
比較政治学の観点から2016年の韓国国会議員選挙がなぜ与党敗北となる選挙結果が生じたのかを分析した上で、選挙結果が今後の政権運営に与える影響を検討する。
公益財団法人日本国際問題研究所, 2016年10月, 国際問題, (第655号), 6 - 16, 日本語[招待有り]
研究論文(学術雑誌)
研究論文(学術雑誌)
[査読有り]
研究論文(学術雑誌)
研究論文(学術雑誌)
研究論文(学術雑誌)
研究論文(学術雑誌)
研究論文(学術雑誌)
研究論文(学術雑誌)
This paper analyzes the relationship between substantive voting rights (SVRs) and electoral management bodies (EMBs). Since the Third Wave of democratization, electoral management has become a salient issueboth in developing and developed countries. We now witness many attempts, regardless of the level of development of a country, to improve electoral management. Two major directions are identifiable in this regard. The first approach involves making EMBs more independent from the executive branch. The secondapproach involves ensuring voting rights more substantively. These trends stem from a deep-rooted problem of worsening electoral performance evident in lower turnouts and eroding electoral credibility. This is an issue that, in extreme cases, can uproot the very foundation of democracy. However, despite widespread awareness of these problems, up to now there has been virtually no debate on the relations between SVRs and EMBs in political science. This paper utilizes the dataset in Massicotte et al.'s studyand provides a preliminary analysis of the relationship between EMBs and SVRs.
木鐸社, 2012年12月, 日本選挙学会報 選挙研究, 28巻 (2号), 62 - 77, 英語研究論文(学術雑誌)
研究論文(学術雑誌)
研究論文(学術雑誌)
研究論文(学術雑誌)
When the Democratic Party of Japan won the general elections in 2009,and it was to be sure that the new government is formed around her, some of the party members made a proposal to organize a transition team to ensure a smooth transition from the old regime. The idea of a transition team is not in the insane. In fact, in the United States, the presidential transition law institutionalizes the team for a smooth transltlon. Transitions often cause confusion. But if such confusion can be avoided by making a transition team, it is desirable for the new administration and also for the voters who have chosen a new government. However, does making such a team ensure a smooth transition?In this paper, I examine this question through the case study of the presidential transitions in Korea。 Unlike the United States where the upper level of the bureaucracies is replaced through the change of presidents, the presence of the transition team can hamper the smooth transition in Japan and Korea who have the merit system bureaucracies. Whether the team can function or not depends on other institutional context relating to the institutional memory of the government.
学習院大学, 2011年03月, 学習院大学 東洋文化研究, 13号、pp.93-116, 93 - 116, 日本語研究論文(学術雑誌)
研究論文(学術雑誌)
Both Hilary Rodham Clinton and Park Geun-hye conceded defeat in presidential party primaries and showed their willingness to cooperate with their respective competitors, Clinton is a good loser for President Obama while Park remains defiant by opposing President Lee. Why are there such significant differences between Clinton and Park in terms of the degree to which a loser in a presidential primary helps a winner in the campaign and, once elected, in the government? This study argues that loser's (dis-)consent is a reflection of party organization, and that it is dependent on the separation of powers and electoral cycles in a presidential regime. By examining Korean cases in detail, this study highlights the significance of timing in a loser's strategic consideration of actions for their next challenge as both presidential and legislative elections are non-concurrent and the interval between the two changes regularly in different presidencies.
日本選挙学会, 2010年06月, 日本選挙学会年報 選挙研究, No.26-1、pp.53-66 (1), 53 - 66, 英語研究論文(学術雑誌)
研究論文(学術雑誌)
研究論文(学術雑誌)
研究論文(学術雑誌)
研究論文(学術雑誌)
[査読有り]
研究論文(学術雑誌)
研究論文(学術雑誌)
[招待有り]
[招待有り]
その他
記事・総説・解説・論説等(大学・研究所紀要)
大阪の都市政治を分析する特集の巻頭言
木鐸社, 2016年10月, レヴァイアサン, (59号), 6 - 8, 日本語記事・総説・解説・論説等(学術雑誌)
韓国の選挙管理委員会のあり方が選挙のあり方に大きな影響を与えていることを説明。
日本貿易振興機構アジア経済研究所, 2016年09月, アジ研 ワールド・トレンド, No.251 (2016年9月号), 4 - 5, 日本語[招待有り]
速報,短報,研究ノート等(大学,研究機関紀要)
記事・総説・解説・論説等(商業誌、新聞、ウェブメディア)
学術書
学術書
教科書・概説・概論
学術書
一般書・啓蒙書
学術書
学術書
学術書
一般書・啓蒙書
一般書・啓蒙書
学術書
学術書
学術書
教科書・概説・概論
学術書
学術書
学術書
学術書
学術書
学術書
学術書
教科書・概説・概論
学術書
学術書
学術書
学術書
学術書
教科書・概説・概論
[招待有り]
口頭発表(招待・特別)
口頭発表(一般)
口頭発表(一般)
口頭発表(一般)
口頭発表(一般)
[招待有り]
口頭発表(招待・特別)
[招待有り]
口頭発表(招待・特別)
口頭発表(一般)
口頭発表(一般)
口頭発表(一般)
口頭発表(一般)
口頭発表(一般)
ポスター発表
口頭発表(一般)
口頭発表(一般)
その他
その他
その他
その他
その他
本研究の目的は、行政組織改革の帰結を、実験アプローチを用いて説明することにある。行政組織改革の直接の帰結である、構成員の意思決定・行動や組織パフォーマンスの変化は、行政学の核心的テーマであるにも拘らず未解明である。本研究は、実験アプローチを行政学に適用し、上記テーマへの回答を与える。加えて、行政学の知見を加味することで、階統的構造を持った集団を対象とする新たな実験設計を提案する。 本研究で検証を予定する行政組織の改革事例は、2000年代以降、自治体で相次いで導入されている組織のフラット化である。組織のフラット化とは、組織階層の簡素化で不要な中間管理職を廃止し、組織の意思決定を迅速化する取り組みであるが、その効果をめぐっては議論が分かれている。本研究では、組織のフラット化が部下へのコントロールを弱めるという点に注目し、フラット化の成否を分ける条件を解明する。 そのために、本研究は実験室実験とそれを補完するための聞き取り調査を行う。実験室実験では、被験者数名を1 グループとし、階統的な組織とフラット組織の結果を比較する。上司と部下の選好の一致度と部下の能力を組み合わせて実験の条件を変化させる点が本実験のポイントである。平成30年度には実験設計し、神戸大学にてプレテストを行った。実験設計過程で、当初予定していたパソコンを用意しての実験より、ネットアプリを活用して実験を行うことが可能でかつ効率的であり、被験者数を飛躍的に増やせることが分かったため、計画を一部変更しネットアプリを用いたプレテストを金沢大学、早稲田大学で行った。
今年度の成果としては、計画されていた日本の地方政府と比較するための海外でのローカルガバナンス調査(具体的には関係アクター調査、社会団体、近隣住民団体、地方政府などへのサーベイ調査)が中国ならびにタイでの政治的環境の悪化から、実施を次年度に伸ばし、それらに替えて、市民へのweb調査を中国での3地域(北京、重慶、浙江)、韓国ソウル市、台湾台北市で行った。これはすでに行った日本13都市でのweb調査に対比可能なものである。また中国側協力研究者たちがローカルガバナンス調査の方法、意義をより理解を深めていただくため、6名を招聘し共同研究会を開催するとともに日本の関係機関(関東地域)への実地調査を行った。
共同研究の中間成果は『第四次 団体の基礎構造に関する調査(日本・社会団体調査)報告書』(筑波大学)228ページとして2019年3月にまとめた。調査の概要から社会過程の分析6論文、政治過程の分析3論文、国際比較分析1論文を含む。その他の日本調査のコードブックの編集も進め、次年度前半に刊行予定である。
そのほか、各分担研究者は、学術論文のほか、例えば
曽我謙悟.2019.『日本の地方政府』〈中公新書2537〉中央公論新社、大西裕(編)2018『選挙ガバナンスの実態 日本編』ミネルヴァ書房、として出版し、また辻中豊・山内直人編2019『ソーシャル・キャピタルと市民社会・政治:幸福・信頼を高めるガバナンスの構築は可能か』(出版は次年度)などを著述編集した。
国政レベルでは小選挙区比例代表並立制という同じ選挙制度を採用している日本・韓国・台湾の3カ国は、安定した二党制(台湾)・一党優位(日本)・新党乱立(韓国)を特徴とする政党システムとなっている。これは、単に政党間競争のパターンが異なるだけではなく、政党と社会の関係や政党組織のあり方といった「政党システムの制度化」の度合いが違うことを意味すると考えられる。本研究では、このような違いについて、研究メンバーが日本の政党組織を研究してきた経験を踏まえて、各国の政党の地方的基盤とその違いを生み出す選挙制度や選挙のタイミングに注目しながら説明することを目的とする。 本年度は、「政党システムの制度化」についての理論的な検討を進めると共に、分担者が手分けしつつ、日本・韓国・台湾について、文献研究と同時に、政党関係者・事務担当者(選挙管理、議会、地方自治など)への調査を行い、政党の地方組織やそれに大きな影響を与える地方議会の選挙制度や選挙のタイミングに注目しつつ、政党システム等の分析を進めた。 研究体制としては、研究代表者である品田の総括の下、理論・データ収集・各国分析について主担当者をおいた。「政党システム」に関する理論については砂原、フィールドとなる日本・韓国・台湾については、それぞれ濱本、大西、松本を主担当として計画を実施した。調査で得られた資料・データは、品田のコーディネートの下、平野が中心となり整理・加工等を行った。 本年度に、研究会やメンバー各自が行った政党システムや地方政治に関する研究は相当に幅広く、また調査分析の全ての成果が出るには至っていないが、知見を本プロジェクトの中心的概念である「政党システムの制度化」という概念で整理し、それぞれの国における政党システムが置かれた環境や制度化の要因について分析を進めることができた。
2017年度における簡易冊子発行に続いて、18年度は、森田東京大学名誉教授、新藤千葉大学教授、及び橋本関西学院大学名誉教授のオーラルヒストリー、そして佐藤成蹊大学名誉教授からの書面回答、更には、韓国・ソウル市立大学権教授、及びオーストラリア・メルボルン大学O'Flynn教授のご講演成果を、簡易冊子合計272頁として印刷・製本し、メンバー間で共有した。 そして、オーラルヒストリー研究として、水谷首都大学東京名誉教授、及び村松京都大学名誉教授からヒアリングを行い、本研究における国内ヒアリングの予定は、以上を以て完結した。その結果、16年度から継続してきたオーラルヒストリー成果は、合計10名の先達からのヒアリング結果として原稿完成したため、これら10名の方々のオーラルヒストリーを刊行すべく、商業出版社と交渉の結果、特定の出版社から出版契約の内諾を得た。よって、19年度において、具体的に出版に向けた準備を進めることとしたい。 加えて、海外の行政学研究成果の検討として、ドイツからWerner Jannポツダム大学教授、及びイギリスからAndrew Massey教授を招聘し、それぞれ、"History of the Ideas and Thoughts of Public Administration in Germany"、そして"The Historical background to Public Administration in England and the United Kingdom"と題した講演を伺った。これらの講演成果は、既に英語原稿としてご本人の最終校閲を経て、完成している。従って、海外オーラルヒストリー成果は、既に、韓豪独英四か国分を集成したこととなる。これらと、メンバー個々が執筆を進めている研究成果を糾合し、更なる出版に漕ぎ着けたい。
現在世界各国で電子投票、在外投票、期日前投票など有権者の投票権行使を積極的に保障する改革(積極的投票権保障、SVRs)が進められてるが、本研究は、その導入の条件、選挙管理機関に与える負荷や変化、有権者の投票行動に与える影響を調査、分析するものである。その分析のために、本研究は制度形成パート、有権者・政治家パート、制度効果パートの3つに分かれて調査を進めてきている。制度形成パートは国際班が担当し、有権者・政治家パートと制度効果パートは国内班が担当した。 制度形成パート:これまでの検討に基づき、選挙管理制度変更の原因とその効果について、各国・地域単位で検討を進めた。うち、東南アジア、東欧、アメリカ、イタリアについては論文を完成させ、政治学会年報に掲載した。また、在外投票と投票不正の関係について、在米メキシコ人に対する調査をおこない、現在英文査読誌に投稿中である。 有権者・政治家パート: 平成28年度におこなった全国市区町村選管調査の結果と、平成29年度におこなった有権者を対象としたアンケート調査の結果を分析し、その成果の一部を政治学会年報に掲載した。選管調査の結果は現在選挙時報に連載中である。まだ未分析のアクターである政治家に対しては、都道府県議会議員に対する全国調査をおこない、分析をおこなっている。 制度効果パート:平成28年度、参議院選挙時におこなったインターネット選挙のデータの分析結果を論文にし、政治学会年報に掲載した。期日前投票をおこなった有権者の方が当日投票をおこなった有権者より選挙後後悔が大きいことがわかり、選挙ガバナンスのあり方が投票結果に影響を与えていることが示された。
本研究は,大規模災害時における復旧復興ガバナンスとしてのペアリング支援の可能性について,東日本大震災時に関西広域連合が行ったカウンターパート方式を事例に,姉妹都市提携など別の支援枠組みとの比較および国際比較を行うことで明らかにした.ペアリング支援とは,被災地自治体を一対一で応援自治体が支援する方式である. 知見としてはまず,カウンターパート方式による関西広域連合の支援は,被災自治体ごとに固有の条件を考慮したきめ細かで長期的な支援体制を可能にした,ただし一方で,諸外国と比較すると支援に関する国からの関与が弱く,今後は緊急時における権限の在り方について再検討が必要であることも明らかとなった.
本研究は、都道府県議会の実証的な比較分析を通じ、近年の選挙区割りの改正が進展する場合の実態と理由および、選挙区割り改正に有権者あるいは議員が与える影響を検討し、選挙区割り改正の原因と影響を明らかにしようとする。分析は、現時点では終了していないが、有権者が全体的に定数削減を支持する一方、議会内の野党議席率などの政治的要因が影響していることがわかった。また、事例の研究からは、選挙区の定数と各党の支持率や政党間連合のあり方が、政治的要因の作用の仕方に影響していると考えられる。
本研究は、グローバル化、とりわけ自由貿易がどのような国内政治的反応を生み出しているのかを、計量分析と事例分析による過程追跡の手法を結合することで実証的かつ総合的に解明することを目指した。そこでは、自由貿易協定の締結で日本に先行する韓国との比較及び日本国内における中央と地方でのTPPをめぐる政治過程の比較を事例分析的に検証する一方、そこでの知見をサーベイ調査と国会議員候補者調査を利用して自由貿易がもたらす「雇用不安」と「消費者利益」そして、自由貿易協定をめぐって論じられる外交戦略、とりわけ「安全保障」という要因が、貿易をめぐる政治過程に影響を与えることを実証し、そのメカニズムを解明した。
日本を除く東アジア諸国がアジア経済危機以後V字型の経済回復を遂げ、さらなる成長を続けることができたのは、貿易の自由化、技術イノベーション能力の向上、労働市場改革などの努力を行った結果であるが、これらの改革は市場の中で自動的に進んだわけではなく、大企業、中小企業、農民、労働者、市場弱者らの間での利害調整が政治的に行われたことによる。政治的調整の内容や効果は、各国の政治制度や政府・社会関係によって異なっているが、貿易自由化・労働市場改革と社会福祉制度拡充との間に、あるいは企業の収益率確保と国民経済の技術イノベーション能力向上との間にトレードオフの関係があるために、政治的調整は困難になりつつある。
本研究は、選挙ガバナンスが民主政治に与える影響を、比較政治学的に解明しようとするものである。本研究は、国際比較と日本国内の自治体間比較を通じて、選挙管理という研究上の大きな空白を埋める。 調査結果、常識的見解と異なる二つのことが明らかになった。第1に、選挙の公平性、公正性は、国際的に推奨される選挙管理機関の独立性のみでは達成できず、より複雑な扱いが必要である。第2に、日本では選挙管理委員会の業務は画一的で公平、校正であると考えられてきたが、委員会や事務局の構成のあり方によって大きく左右される。それゆえ、市区町村によってバリエーションが発生している。
圧力団体、社会団体、政策ネットワーク、有権者等調査によって以下を検証。現代日本では、若年よりも老年世代が、非生産よりも生産セクターがより組織化され、国際比較的にみた特徴をなす。また戦後形成の古い団体が頑強であり、新興団体の利益表出は限定的で、団体世界は縮小している。この状況下で起きた2009年政権交代は、政治過程における団体行動によるものであると考えることは難しい。むしろ頂上レベルでは、団体行動は政権交代を受けて変化した。市民社会は政治変動に応じて変化しやすく、2009年政権交代の影響は頂上レベルを中心とした限定的なものであったことを示唆している。地球環境政策ネットワークもほぼ変化がない。
本研究は、国会議員を主とする政治家と有権者の関係、あるいは政治家同士の関係がどのように変容しつつあるのかを調査し、その変化の要因を実証的に解明することを目的として開始された。その結果、本研究では、選挙区レベルの詳細な観察・データを基に、実証的に現代日本の選挙政治の変容を明らかにすることができた。取り上げた研究対象は、集票活動・有権者と政治家の関係・政治家同士の関係・議員活動・政治家のキャリアパス・政党下部組織など、多岐にわたった。これらの分析から得られた成果を基礎に、さらに、国会のあり方や選挙制度にまで分析を進めることができ、現代日本の選挙政治理解に一定の貢献を果たすことができた。
本研究では、アメリカを参照事例に韓国における政権移行の過程を調査・分析した。分かったことは以下の2点である。第1に、同じく大統領制を採用していても、政権移行のパフォーマンスは米韓で大きく異なる。その差異には官僚制のあり方が関係している。猟官制をとり交代時に官僚が入れ替わるアメリカとそうではない韓国とでは、政権運営に関する「制度記憶」の継承に大きな違いが生じる。第2に、政権移行チームの存在が円滑な移行を阻害しうる。移行チームは本来円滑な移行を目的とする。政権移行チームは、本来、政権移行期の混乱を最小限にするために設けられるものであり、猟官制をとるアメリカにおいては政権交代に伴う制度記憶喪失を補完する装置であった。しかし、同様の装置を、制度的文脈が異なる韓国に置くと、逆に制度記憶の継承を阻害するよう機能してしまうことがある。
本研究では、現代の民主主義における政党組織の共通性と各国固有の特徴とその規定要員を明らかにするために、日本の民主党、自由民主党の政党本部、各地の地方組織(都道府県連合会)に対する聞き取り調査と、都道府県議会議員に対するアンケート調査を行い、これらの情報・データをもとに国内比較、国際比較の観点を加えつつ、研究会を積み重ねながら様々な分析を行った。
本研究は、日本における政権変動、政策パラダイムの変化といった一連の政治変動が、どのような衝撃を、政策過程や市民社会に与えるかを、複数レベルの調査を行い検証しようとする。 政治構造が実質的に変化したとすれば、最初に中央政府や政党と緊密な関係を有し利益の確保に努力する圧力団体の態度に変容が生じ、それとともにアクター間の政策ネットワークが変容し、さらに分権改革とともに地方政府や草の根の市民社会に波及すると予想される。本研究は順次、圧力団体、政策ネットワーク、地方政府・市民社会を体系的に調査し、圧力団体、政策ネットワーク、市民社会の3レベルから日本政治の構造変動と政治・社会関係の変容を比較政治的に解明することを目的とする。これまでの仮説と予測される結果から、意義を述べると、1)3次の圧力団体調査からは、政党の勢力配置など政治変動の社会への主導性、つまり政権政党交代の大きなインパクトが示唆されている。2)政策ネットワーク調査からは、自民党優位体制下で比較政治的にみた日本のアクター関係の「少数固定性」が顕著であったが、2009年以後の新体制において、アクターのシフト、流動化が予想される。ネットワーク形も労働やNPOセクターへの拡大など構造変化も予測される。3)市民社会組織・地方政府調査から、それがどの程度、全国的に地方レベルまで浸透したかが確認される。 初年度は、研究分担を決定し、国際的な視野と既存データの体系的な検討から、調査のための仮説群を設定しようとする。国際的には「一党優位政党制以後」という視角から、またこれまでに行った13カ国市民社会比較の観点から検討する。本研究は途中で中止(Sの認定により)されたため、こうした作業を行う準備作業を進めたに留まった。メンバーの役割を確定し、一部の研究資料を購入し、仮説検討のための資料を印刷することに費やされた。
本研究は、日本における選挙管理に関する政治学的・行政学的研究の嚆矢である。選挙管理は途上国に限らず政治的に中立性を保ちにくく、それだけ政治権力からの独立性が必要とされている。しかし、韓国のように独立性が強い国ではそれゆえに選挙管理機関自体が政治化しやすい。制度と選挙管理のパフォーマンスの間にも先行研究が指摘するような対応関係は確認できず、全国一律で実施されている日本でもバリエーションが発生する。
本研究は、日本の市民社会の構造を包括的かつ実証的に調査し、米韓独中との5カ国比較から日本の政治と社会の相互作用(ガバナンス)を明らかにしようとする。ここで構造とは市民社会組織全般を指し、本研究では3レベル(近隣住民組織=自治会等、電話帳所収の社会団体、登録NPO)に注目する。理論的には市民社会論、ソーシャル・キャピタル論、政策ネットワーク論、ガバナンス論を背景とした調査票を作成し、それを基に調査を行い、現代日本社会の構造的パターンを発見しようとしている。
本研究は、わが国の政治行政システムにおける中央-地方関係の位置づけ、中央と地方両レベルの政治行政構造の重層的なリンク、また両レベルの政治過程の連動等を、全国市区町村長調査の量的分析および行政・団体関係者へのインタビューによる質的分析を通じ、明らかにした。これにより、「政策受益団体・地方政府連合」論の有効性を確認し、今後、この概念を用いた日本型経営、日本型福祉国家、一党優位制の総合的な分析の手がかりを得ることができた。
1980年代後半以降の東アジア諸国の高度経済成長に注目して、世界銀行による『東アジアの奇跡』においては、東アジア諸国の経済発展過程における経済テクノクラートの役割やそれを中心とした制度の強靱性などが指摘され、大きな注目を集めた。しかし、その後経済政策の民営化の促進の他、各国では民主化の動きが過疎するなど、経済官僚を取り巻く環境は大きく変化した。このため、本研究では、こうした新しい政治経済環境の下で、経済テクノクラートの変容する役割に注目した。 まず、本研究では、これまで欠落していた東アジア諸国の経済政策策定と決定過程に関して、そのメカニズムと経済官僚の役割が明確にされた。次ぎに、これらの経済官僚に関する社会的バックグランウンド(教育歴、職歴など)に関する基礎データの総合的な収集と整理が行われた。 これらの作業を通じて、各国の経済計画策定・実行機関とそれを支える官僚機構の強靱さと98年経済危機における役割の変容が明らかになった。しかし、その方向性は必ずしも一様ではない。インドネシアのように、いったん弱体化したものの、近年かつてのように強化された国もあれば、マレーシアのように経済危機を契機により集中化した国も見られた。
本研究は、1997年に日韓両国を襲った深刻な金融危機への対応が両国で大きく異なった理由を明らかにすることによって、政党が経済政策を左右する重要な要素であることを主張し、金融政策決定過程に新しい視点を提示するものである。 1.韓国における需要拡大政策のタイミングと規模を調査した。需要拡大は1999年に大規模に発生しているが,これは金大中政権のIT政策に大きく関係のあることが分かった。すなわち、電子取引の拡大を行うために奨励した、消費者によるクレジットカードの使用が過剰に行われたため、消費が拡大した。しかし、カード使用に関する消費者の健全性認識が不十分であったため、消費者のカード破産が相次ぎ、盧武鉉政権期初期に経済調整局面を必要とすることになった。 2.韓国の都市銀行の健全化について、1998年の第1次調整、1999年の第2次調整、メガバンク再編について調査した。第1次調整では、事実上破綻状態の都市銀行の経営権を奪う形で強制的な調整が行われたことが分かった。第2次調整およびメガバンク再編では、第1次調整の結果、多くの銀行の経営権を政府が把握しており、そのもとで行われたことが分かった。この観点からすると、鄭のいうように開発主義国家的な、国家主導による再編ということができる。しかし、1997年以前と異なり、政府の視野は国内金融秩序の維持・産業資金の供給から大きく転換している。この転換には、外資が韓国の金融機関に参加したことによる新たな基準の導入と、外資が好むような銀行経営を是とする一般有権者の志向が政党を通じて行政に織り込まれたことが重要であることが明らかになった。
本研究では「民主主義体制を長期的に持続させる基本的要因は、紛争や抑圧を経験する中で人々が民主主義的な手続きを遵守することの重要性や不可避性を学習することである」という基本仮説を、理論研究、計量分析、事例研究を組み合わせて検証した。まず民主主義や立憲制に関する規範理論は、選ばれた指導者による民主主義をよしとするシュンペーターの議論から、一般市民の深い政治参加を求める熟議デモクラシー論まで様々な民主主義形態を措定しているが、ほぼ共通するのは、民主主義的な価値規範が決定の場や討論への参加を通して形成される(積極的学習)と見ていることである。計量分析においては、この「積極的学習」要因と同時に、紛争や抑圧といったネガティブな経験が民主制再評価をもたらすとする「反動的学習」要因を組み入れて、両者の効果を検証した。その結果ラテンアメリカについては「反動的学習」効果が強く見られるが、「積極的学習」も一部に観察されること、アフリカについては、「反動的学習」効果が見られる国と、「積極的学習」効果が見られる国に2分されること、アジアについては明確なパターンが現れないことが明らかになった。これは、まだ民主化が進んでいない国が多数混じっている地域では、民主主義に対する態度に「手続きへのコミットメント」とは異なる「単なる期待」が含まれていること、さらに「移行」と「持続」の条件が必ずしも一致しないことが、定量的な検証を困難にしているためである。それを補うのが事例研究である。個別の国や地域の事例分析によれば、各国の社会的・政治的亀裂という構造要因によって「反動的学習」や「積極的学習」の効果が異なり、前者が民主化に繋がらず、後者も民主主義へのコミットメントを向上させないことがありうる。ただし本研究の基本仮説は、その有効性において民主化に関する他の仮説に劣らないことが実証された。
本研究の目的は、政治家や官僚を目的合理的な行為者と想定する合理的選択制度論の立場に立ち、日本と韓国の政治行政の比較を通じて、ミクロの因果メカニズムを捉えつつ、制度と政治的帰結との間の因果関係分析を行うことであった。このような目的に照らし、平成17年度には、ハンナラ党、ウリ党の国会議員、政党職員を中心に、また平成18年度には、民主労働党の議員や政党職員、引退議員の団体である「憲政会」等にも対象を広げてインタビュー調査を行った。これらの内容をもとに韓国における政党組織の特徴を分析し、韓国における民主政治の現状についてある程度明らかにすることができた。韓国の諸政党においては、政党内部の民主化、透明化という制度改革の試みがなされているものの、大統領制の影響が大きく、大統領、もしくは大統領候補たる党首、党首の意を受けた党執行部が公認の決定、政策の決定などにおいて強い影響力を行使してきた。また与党の政策形成過程については、政府官僚制との交渉が大きな比重を占めることも明らかにされ、政策形成過程における官僚制の役割の大きさも示された。後者については、省庁官僚制の役割の大きさも見出すことができたように思われる。但し、ノムヒョン政権のもとでは、与党ウリ党は十分な組織的一体性を備えておらず、またそのリソースも必ずしも十分ではなく、しばしば野党ハンナラ党の方が、強い一体性を保持していたようにも見受けられる。 また本研究においては、このような政党組織の調査に加えて、日韓比較の観点から、韓国政治、日本政治を捉える研究を、研究協力者等の協力を得て展開した。研究協力者として参加してもらった韓国の政治学者との研究交流は、日本政治、韓国政治を捉えるうえで有意義なものであったと思われる。
本研究は、調査対象各国における広域的な地方自治体間の連携の制度および実態を明らかにすることによって、日本における広域的な自治体間連携のあり方について示唆を得ようとするものである。 1990年代の第1次分権改革の中では、当初、市町村合併と広域行政を併記し、両者に優劣をつけるとはされなかったが、その後合併優先の政策誘導に戦略転換され、3200余り存在した市町村は、約1800に統合された。 だが、諸外国を見た場合に、地方自治体間連携のあり方は様々であり、市町村合併を幾度も経験した国もあれば、同様の効果を広域的な自治体間連携で機能させている国もある。本研究においては、調査対象各国における自治体制度の類型と自治体連携のパターンの関連を探るとともに、合併を選択する場合との機能面での優劣の比較を試みた。 調査対象各国における実態を明らかにするため現地調査を精力的に行うととともに、平成18年7月の世界政治学会IPSA福岡世界大会(IPSA World Congress, Fukuoka)に、ローカルセッションとして本科研メンバーによるセッションを設けて議論を深めた。 これらの海外調査の成果も取り入れながら、本研究では、基礎自治体の機能と、広域行政、自治体間連携のパターンを比較し、それぞれの機能特性(広域行政、自治体間連携を可能とする条件・環境など)、長所短所の分析を行った。 日本における合併も一段落がついた。ただ、今後、さらなる合併の道へと歩みを進めるのか、あるいは、諸外国の例にみられるように、基礎的な自治体、Local Communityとのつながりを大事にして既存の基礎自治体は維持しつつ、住民へのサービス提供の効率性に向けての様々な自治体間連携の仕組みを創設していくのかは、現時点では不明である。だが、為政者がどのような政策決定をするにせよ、諸外国の経験から学ぶことは少なくはないと考えられる。
競争的資金
韓国の金融政策は、権威主義時代と1987年の民主化以降とで大きく変化した。権威主義時代には、金融政策は経済状態の変化に応じて転換されたが、民主化以降には、経済状態が悪いにもかかわらず政策の基本的な方針に変化はなかった。それはなぜか。 本報告書は、大統領、国会議員、官僚などの政治アクターの行動に重点を置いてこの問いにアプローチする。大統領と、経済企画院、財務部、商工部といった経済官僚制との関係を本人-代理人関係としてとらえたうえで、官僚が大統領の意志決定を補助し、大統領が指示する範囲内で政策形成に関与した点で、民主化以前と以降に大きな変化はなかったと考える。他方、大統領は多くの意志決定において国会の承認を必要としており、彼が重要な政策を決定する際に相手にしなければならなかったのは、国会議員であった。それゆえ本報告書は、民主化を機に国会内における与党の支持基盤が「与村野都」から「地域主義」に様変わりしたことが、金融政策の転換と継続という帰結の違いを生み出した、と結論づける。政党構造の変化により、国会は民主化以前よりも世論の変化を反映しにくくなっていたのであった。例外的に忠実な特定地域の有権者を確保できた金大中政権だけが、政策転換が可能で、通貨危機からの脱出に成功したのであった。 すなわち、金融政策の転換と継続は、世論の変化と政党構造の変化に対応してなされた、大統領の意思(政策選択)によるものだったのである。
本研究は、1990年代以降の、日韓の公共政策および政策過程の差異と共通性の摘出、その説明に関する各分野および一般モデルの提出、またその成果の公刊を目的とした。共同研究者による研究成果として、金融政策、マクロ経済政策、通貨政策、通商政策、言語政策、地方自治政策、外交・安全保障政策などについて、各自は比較および各国研究を発表した。 他方、本研究成果の特徴として、こうした個別政策以外に、こうした政策過程を取り巻く社会構造をより包括的に分析し、その日韓比較を発表したことが挙げられる。他の研究資金にも依拠しつつ、日韓だけでなく米独、中国、ロシア、トルコといった各国における市民社会の基礎的な団体構造の把握を目指す団体調査とその分析も並行して行った。政策ネットワーク調査がいわば最も重要な政策アクターに着目するのに対して、団体基礎構造調査は、市民社会に存在するすべての団体、組合、クラブ、結社に着目する。この調査によって、こうした基礎団体レベルでの、各種組織の構成割合、リソース、行動様式、対他アクター関係、政治化の度合などが比較政治的に明らかになり、これはいわば政策過程や政策出力への説明変数となりうる。 韓国側の協力者を含めた共同研究集団の3年に亘る本研究(およびそれ以前から継続した研究、およびそれに続く研究)によって、上記目的にそった実証調査が遂行され、その成果を500頁近い学術書の形で発表することができた(辻中豊・廉載鎬編著『現代韓国の市民社会・利益団体-日韓比較による体制移行の研究』木鐸社、2004年、490頁)。 さらに、同期間に中国およびロシアでも同じ枠組みを用いて同種の調査を実施(他の研究資金を得た)したため、現時点では、それらと日本との比較を行いそのコードブックを資料として発表することとした。
本研究は、「民主主義体制の長期的持続を可能にする最も基本的な要因は、長期にわたる紛争や抑圧を経験する中で、相争う人々が、民主主義的な手続きを(結果を保障しないという意味で不確実性を含むにも関わらず)遵守することの重要性や不可避性を学習することである」との仮説を提出した。同時に、地域や国による学習の困難さ・容易さを左右する要因として、構造的要因(国内社会構造、国際構造)と制度的要因も考慮に入れることにした。構造的・制度的コンテクストの中で進む紛争・抑圧の過程と、その中で形成される民主主義的規範を、民主主義体制持続の条件として最重要視するという意味で、この理論枠組みは「構造・構成主義アプローチ」と呼びうる。個別地域・国の経験に関してチリとアルゼンティンの事例研究によれば、紛争による社会的規範の変化という側面は確かに見られるが、その基盤として、社会構造の変化による左派の動員能力の低下という構造要因が重要である。民主化が不十分なまま続いているアフリカの事例は、エスニックな対立と統合的行政能力の欠如が相互に強めあう悪循環に陥っていることを示しており、やはり構造・制度の制約が重要である。東南アジア諸国の事例は、紛争経験そのものよりも、紛争経験の記憶や解釈(やその変化)が民主主義体制の維持や崩壊に影響を与えることを示している。ウクライナの場合、2004年の選挙騒動自体が民主化プロセスの一部であり、紛争がいっそうの民主化を促した例と見ることができる。他方韓国の場合は、構造的要因よりも権威主義派エリートによる抑圧と寛容のコスト計算が重視される。構成主義のいう「規範」ではなく、エリートの「合理的選択」を強調する見方である。台湾の事例研究では、移行については韓国と同様エリートの合理的選択があったとされるが、その後活性化したエスニック政治の中で民主主義が規範化されつつある可能性も指摘されている。
日本における地方政府の政策能力の維持・増大は、戦前は内務省による人事・財政を通じたコントロールにより、また戦後は、公選首長のもと、地方政府の人事戦略と高等教育の一般化により達成されてきた。地方政府の人事戦略は、中央政府と地方政府間の人的リンケージ(中央から地方への出向、地方から中央への派遣、地方間の人事交流)、研修(OJT、Off-JT)、民間にひけのとらない給与水準の維持、地方における政策イニシャティブなどである。これらの人事戦略による人的資源の充実が、地方の自律性を高める上で重要な要素であった。 本研究では、各分担者の興味関心を重視しつつも、中央と地方との関係について、人的資源の管理という観点を挿入しながら考察を進めた。分離型の典型とされるイギリスにおいては、人事交流は皆無に近いことがわかった。融合型のドイツでも人事交流は殆どなかった。ドイツはそもそも人事異動自体が少ない。だがフランスでは、中堅以上の職位においては本人の意思による自治体間の異動が比較的多く、それがポジティブなものと考えられているようである。ただ、日本のような出向という制度はない。このように、先進各国をみただけでもその態様はさまざまであった。この点は途上国の例をみても言える。 日本が慣例として持っている人事交流という実態は、諸外国から見てユニークな特徴である。戦前の内務官僚の人事配置を、戦後は別の法的スキームのもとで首長の主体性をもって出向官僚を受け入れてきた。ただ、これが地方の自律性を高める上でプラスに働いたという主張の検証には、自律性の国際比較などの検討が今後必要である。
本研究では、1990年代を中心に展開した金融自由化政策に政治や官僚制、金融機関が与えた影響を明らかにする。そのための作業として、まず第1に、1990年代の動きを整理するため、朝鮮日報等、韓国の主要な新聞に出てくる記事を整理した。その結果、部分的金融自由化の本格化は金泳三政権発足をきっかけに生じたこと、その主たる動機は、当時韓国を襲った不景気からの脱出には、1980年代まで広範に行なわれていた政策金融では不可能であり、金融自由化が資金供給の代替手段であったことが明らかになった。次に、金融改革を行なうために設けられた金融発展審議会、金融改革委員会の答申、IMFとの議定書等金融自由化計画に関する文書及び関連する研究論文を収集した。収集の過程で、1970年代から1980年代への政策志向の変化が重要であることに気づき、それに関する文献も収集した。この分析結果は、平成15年度に日文研叢書『日本の政治経済とアジア諸国』(村松岐夫京大教授編)所収の論文に反映されている。なお、大統領-議会関係が経済政策に与える影響を分析するために行なった研究成果は、2001年度現代韓国朝鮮学会シンポジウム報告「不可解なハンナラ」で公表した。 平成14年度はいくつかのケースを中心に、金融政策決定に関わったと考えられている政治アクターの行動を調査した。対象としたのは、韓国の金融政策の重要な転換点となった91年の部分的金利自由化開始と、97年の金融改革委員会答申、98年の通貨危機下での第1次金融構造調整と、転換点となり損ねた93年の金融発展審議会答申である。分析の結果、民主化によって政党構造が変化したことが、権威主義時代にはあった政策循環を止め、財閥企業の経営効率を低下させていったことが明らかになった。 以上の成果は、一部をすでに公表したが、著書としてまとめて公表する予定である。
本研究は、バブル経済対策の遅れを政治学的な観点から実証的に解明することを目的としていた。そのため理論研究、文献・資料収集、聞き取り調査を行い、世論調査の時系列データ・新聞報道の内容データ・聞き取りデータ・各種年表を整備した。また各自がテーマを決めて分析を進めた。内容的には(1)バブル崩壊後の処理を説明する伊藤・真渕・大西と(2)バブル経済前後の環境を検討する加藤・久米・品田に分かれる。(1)の中で伊藤・真渕は、住専問題に焦点を定める。この問題が早い段階で国民に公的資金投入への不信感を植え付けたため、後に不良債権処理が困難になった。真渕は日住金の第一次再建計画、第二次再建計画、財政資金投入を含む処理案の策定過程を時系列で追跡し、各時点での当事者の考え・行動を検討した。伊藤は新制度論アプローチを用い、護送船団方式という理念、さまざまな制度配置、官僚スキャンダルなどの状況的要因を住専処理策の説明要因として析出した。大西は昨年来の理論研究を踏まえ、韓国通貨危機は、「擬似中央銀行」と見られてきた財政経済院の力の限界が露呈したことをきっかけに投資家の平価切り下げ予測が決定的になったからだとした。(2)の中で、加藤は、わが国の官僚・政党・企業組織に共通して存在する、同質的で低い流動性という組織的特徴が、政治経済上の成功局面では合意の効率的形成と効率的な機能遂行に貢献したが、逆に失敗の局面では、組織の機能の衰退を黙認する存在となったことを示した。久米は、不良債権処理のための公的資金投入をめぐる新聞報道について記事件数、論調、各アクターの立場を系時的に分析した。品田は、各候補者の選挙公約から「全体-個別」、「創出-修正」の二軸を抽出し、93年以降、政治改革のような「全体・創出」型の政策が急増し政党再編の焦点となったことを明らかにした。以上、最終年度終了にあたり一定の成果は示すことができたが、研究の未完成部分および各研究の体系的な結合を進め、今後、最終的な成果を可及的速やかに公表することを期したい。
本研究は、開発途上国における地方分権化と開発との関係を明らかにすることを目的とする。対象国は、韓国、タイ、フィリピン、マレーシア、インドネシア、中国である。研究の内容は大きく3つに分かれ、第1は当該諸国の地方制度とその運営状況で、第2はそれぞれの地方制度改革の経過、第3は地方分権化と開発を関係づける理論的考察である。なお、アジア諸国では先発例にあたる韓国の都市政治に関する最新の動きと研究動向を、本研究のメンバーで共有するため、1999年度に韓国のソウル市立大学の權寧周教授に研究会報告とヒアリングをお願いした。本研究では、第1に、地方行政システムの法律上の状況を調査した。中央と地方の権限の分配方法とその内容、中央の出先機関と地方団体の関係、地方財政制度、地方公務員制度など行政制度・地方制度に関する諸法制を調査し、その運営状況を調べた。第2に、地方分権化改革について、ヨーロッパと日本で発展した統合型地方制度モデルと経済学において唱導されている分離型地方モデルの利害得失を、各国ごとに分析した。理論研究面では、上の二つのモデルについて、アジア諸国の分析モデルを考察する前段階として日本及び欧米での中央-地方関係に関する研究のレビューをおこなった。以上の分析は個々の研究者でおこなわれたので、それぞれの研究成果をレビューすべく、研究会を計6度開いた。本研究の成果は、論文公表や対外研究会報告の他に、研究会メンバーがJICAの途上国法制支援プログラム(「タイ地方行政/地方自治体能力向上プログラム」)に参加し、貢献する形で社会に還元している。
1990年代に入って韓国が迎えた本格的な文民政権である金泳三・金大中両政権は、いずれも行政改革の世界的な潮流に則って、新自由主義的な行政改革をおこなおうとしてきた。本研究は2つの政権の行政改革に関するパフォーマンスを調査した。当初の予定では両政権の違いを浮き彫りにし、因果関係を明らかにすることに重点を置いていたが、調査を終えてむしろ重要であるとわかったのは両政権の共通性であった。両政権は、同じような分野を改革し、同じような分野で改革が進まず、改革の進展も同じペースであった。すなわち、両政権は、中央省庁再編、公務員制度改革といった、政府組織内部の改革には積極的かつラディカルに取り組むが、規制緩和は漸進主義的で、公私領域の見直しにつながる民営化はほとんど進めないのである。改革のペースについては、政権初期に急速に改革を進めるが、中期以降改革はほとんど進行しなくなる。 ではなぜ以上のような特徴を両政権は示したのであろうか。本研究でこの解答として得たのは2つである。一つは、改革の内容を規定しているのは、改革が持っている大統領権力と中枢管理機能を強化する方向性である。すなわち、行政府の権限や資源がトップに集中する方向での改革はなされるし、ライン官庁の権限を割く規制緩和は可能であるが、大統領権限の縮小につながる公企業の民営化は進行しない。もう一つは、大統領任期が単任制であるためレイムダック化が早く、任期の中盤には政策パフォーマンスが低下することが行政改革のペースを規定しているということである。 両政権が意外な共通性を持ったのは、韓国の大統領制と行政府が持つ制度的な特徴に由来するものであったからである。この限りにおいて、歴史的新制度論の分析枠組みが有効であることが本研究で確認された。
この研究プロジェクトは、途上国の行政能力向上(capacity-building)に関して分権化推進と行政制度改善のための提言を行うことを目的とした。研究成果は、理論面と実際面に分けられる。理論的成果の第一は、世界的な分権化の潮流がアジア諸国における分権化には、二つの要因が大きく影響していることが分かった。第一は、途上国が被援助国であるために、援助国・機関の分権化思想の影響受けやすい。ここで援助機関とは世界銀行、IMF,アジア開発銀行などである。第二には、多くの被援助国は、旧植民地国であり、宗主国の残した制度が現在のシステムの中にも濃厚に観察される。こうした環境のもとでの分権化は、各国で民主化過程のための要素である過程と理解されている。旧来の開発独裁的な行政であれ、最近の規制緩和を含む経済改革であれ「上からの」改革が進行する中で民主化は進歩の方向である。政府指導者の側からも政権を正統化するための妥協の策として分権化は受け入れられている。問題はどのようなタイプの地方制度を採用するかである。この点について我々は、途上国の分権化改革の全体について日本の機関委任事務、補助金制度、出向人事等は有益であるとの実務界からの意見も得られた。 次に、本プロジェクトが特に焦点を当てた住民登録に関して述べるならば、独立の過程での宗主国との葛藤が住民登録行政には刻印されていることが分かった。フィリピンにおける住民登録への嫌悪感は明らかにスペイン統治の後遺症であるし、マレーシアは建国とその後の政治秩序の維持のためにマレー人優位をうたう憲法持つという結果をもたらした。 さらに住民登録行政の発達には、その国家目的の重点の変化が見られる。住民登録は、徴税や徴兵といった国家の資源動員のための手段であると考えられたが、最近では、途上国の民主化は次第に住民登録を住民への公平なサービスのための行政制度と位置づけるようになっていったと思われる。我々が得た知見は、以上の大きな流れの中で適用されなければならない。
本研究では、1950年代末から1970年代末までの韓国産業銀行の意思決定過程を調査した。調査は、基本的には各種文書資料の収集分析によった。まず第1に、基礎的なデータとして当該期間の銀行行政について韓国官報、東亜日報等の記事を調べた。ただし、これらは多くが決定の結果であり、基本的は事実はつかめたが、意思決定過程は把握できなかた。第2に、韓国産業銀行の融資の流れをつかんだ上で、財務部、韓国銀行の報告文書を収集しようとした。しかし、関連する資料はほとんど国内では発見できず、韓国に行って現地で研究する必要を痛感することになった。なお、現地の機関からの協力については、協力者が多忙のため、なかなか資料を得ることができず、現在ようやくその分析をはじめたところである。第3に、建設部、経済企画院、商工部、交通部等の意思決定の内容と決定過程を検討するため、それぞれの機関及びそれに付属する、経済開発研究院等の研究機関の、関連する研究報告や年次資料等を収集した。特に、韓国産業銀行に重大な影響を与えた経済開発研究院についてはほぼフォローアップすることができた。第4に、韓国産業銀行の人事の動きを調べるため、関連データを収集した。現在、このデータの中心部分であるキャリア・パスの入力作業を行なっている最中である。 全体として、当該年度中は関係資料の収集に終始し、その分析が不十分であった。また、資料のなかには日本国内には存在しないものが多々あり、韓国に赴いて直接収集をおこなう必要性を痛感した。本研究については、収集した資料の一部を利用して、このテーマに関して、日韓文化交流基金にて研究会報告を行ない、現在論稿を執筆中である(平成10年出版予定)。しかしながら、まだ資料収集とその分析が年度内には不十分にしかおこなえなかった点は、この研究をまとめる上で今後の検討課題として残っていると思われる。
本研究では、韓国における1950年代末から1970年代初めまでの銀行行政をめぐる政策決定及び執行過程について調査をおこなった。調査は、基本的には各種文書資料の収集分析によった。 まず、基本的なデータとして、1950年代末から1970年代初めまでの銀行行政について韓国官報、東亜日報に掲載された記事を調べた。但しこれらの中には政府の金融政策に関する叙述はみられたが、銀行への行政の関与については、表面的な問題点の辛しい決定ぐらいしか分からなかった。 次に、これらのデータをもとに銀行行政の流れをつかんだ上で、実際に銀行行政の中核をになってきた財務部、韓国銀行、金融通過運営委員会(1962年以前は金融通過委員会)の報告文書を収集した。このうち、財務部と韓国銀行についてはある程度の報告文書が得られたが、金融通過運営委員会については、残存する資料が日本国内ではほとんど見当たらなかった。 第3に、経済企画院、商工部の意思決定の内容と決定過程を検討した。これらについては、貿易振興との関係からある程度収集することができた。第4に、経済官庁で銀行行政に関係する機関の人事の動きを調べた。 全体として、当該年度中は関係資料の収集に終始し、その分析が不十分であった。また、資料のなかには日本国内には存在しないものが多々あり、韓国に赴いて直接収集をおこなう必要性を痛感した。本研究については、収集した資料の一部を利用して、このテーマに関して国際政治学会にて学会報告を行ない、論稿を著した。しかしながら、まだ資料収集とその分析が年度内には不十分にしかおこなえなかった点は、この研究をまとめる上で今後の検討課題として残っていると思われる。
本研究では、韓国で急速な経済成長が始まる一方で、日本では繊維不況が生じる時期におこった韓国における輸出自由地域の形成と日本の繊維産業移転を調査した。調査は、基本的には各種文書資料の収集分析と面接調査によった。 まず、当該年代における日本の繊維産業の移転状況、日本及び韓国の繊維産業の生産量の変遷を把握すべく資料を収集した。特に、日本から韓国に移転した企業(具体的には大阪府下の企業)の動向について追い、日本の中央政府・地方政府(具体的には大阪府)及び韓国政府から移転に際してコスト負担やサンクションがなかったかを調査した。 第2に、日韓中央政府間で焦点となっていた日韓基本条約締結の際の対日請求権に基づく援助・借款がどのように韓国側で使用されたかを調べた。この資金の多くは基礎的産業育成のための投資にまわっていたことが明らかになったが、それは大まかな概略だけであり、必要となるデータを十分とるためには日本国内では限界があった。 第3に、日本から韓国への移転をおこなった企業を調べ、日本及び韓国の中央・地方政府が移転に際しどのような対応をとったのかを当時の企業トップに聞き取り調査をしようとしたが、実際には当時の関係者を捕まえることは困難で、通信会社の記者にインタヴューするにとどまった。 最後に、企業の移転元である日本の地方政府が、移転に際し失業等のコストを埋めるための対応に関する資料を収集した。 全体として、当該年度中は関係資料の収集に終始し、その分析が不十分であった。また、韓国側の資料を収集するためには日本国内では限界があり、韓国での収集をおこなわねばならない。これらがこの研究をまとめる上で今後の課題として残っている。